2008/04/25

在外投票

軍事政権が自分たちに都合良く作った憲法草案の賛否を問う国民投票が5月10日に行われるが、それに先立ち国外在住のビルマ人の在外投票が各国の大使館で実施される。

日本では品川のビルマ大使館で4月26日(土)、27日(日)の二日にかけて投票が行われ、在日ビルマ人にすでにその旨通知がなされている。

とはいっても、通知は難民や難民申請者には届いていない。ビルマ大使館が投票を認めるのは、有効なパスポートをもつ人、つまり帰国の意思があるとみなされる人々だけだという。

これに対して、在日ビルマ国籍者の活動家や難民は「自分たちの投票権を認めよ」と、投票日に大規模な抗議活動を行う予定だ。

ビルマ市民フォーラムのメーリングリストに流れた声明を引用しよう。

「在日ビルマ人民主化活動家  投票権を求め、在日ビルマ大使館に要請書を提出 (東京) 」

4月22日(火)、在日ビルマ人共同行動実行委員会(JAC、在日ビルマ人の 民主化運動団体31団体の連合体)は在日ビルマ大使館へ憲法草案の賛否 を問う国民投票の在外投票に関する説明ならびに投票権付与を求め、 要請書を提出しました。民主化運動に関わらない一般の在日ビルマ人には 在外投票の案内が手紙で郵送されています。

JACは大使館へ直接要請書を提出したいと希望していましたが、インターホン を何度ならしても全く反応はなく、要請書は大使館の郵便受ポストへ入れました。

大使館の対応を受けて、JACは4月26日(土)および27日(日) 朝8時30分〜午後6時まで、在日ビルマ大使館前で投票権に関する 大使館側の説明を求め抗議行動を行うことを決定しました。

日本のみなさまも、ぜひこの大使館/ビルマ軍事政権の姿に注目して いただきますようお願いいたします。(以上引用)

一方、通知をもらった人々、つまり「投票権を持つ」人々はどうかといえば、まったく困り果てているのだそうだ。

難民申請をしない、あるいは政治活動をしないと言っても、必ずしも軍事政権に賛成しているわけではない。生活上の必要があって、パスポートの更新をしなくてはならない人もいるし、日本人と結婚したものの帰化が認められないから仕方なくビルマのパスポートをもっている人もいる。国に残した家族・親族のことを心配して表立って声を上げないだけだ。

だから、もちろん軍事政権の憲法など拒否したい。いや、投票なんて行きたくない。では棄権するか、と、送られてきた通知を見る。4桁の番号が書いてある。しかも、投票にさいしてはパスポートとこの通知をもってくるべし、などと記されている。ということは、誰が棄権したかばっちりわかる仕組みなのだ。となると、棄権したら、政府に睨まれ、今後のパスポートの更新に支障が生ずるかもしれない。

では行くだけ行って、思い切って反対の票を投じたらどうか。いや、それこそ一番やってはイケないことだ。きっと、国に残した家族が虐待される。投票の秘密を守るなんて立派なことができる政府なら誰もこんな苦労はしない。

とどのつまりは、賛成という選択肢しかない。軍事政権が永久に続くように賛成の票を泣く泣く投ずるほかないのだ。だが、それだけは絶対にしたくない。

と、こんな風に心ある「有権者」たちはいま絶体絶命のジレンマに追い込まれているというのだ。ある人はなんとか「入院中」ということで切り抜けられないかと、思案したほどだ。

もちろん大使館前でデモを準備している活動家たちも同じ国の人々が困っているのは熟知している。そこで、こんな名案が生まれた。

つまり、投票日には投票権を求める活動家たちが大使館の入り口に並び「自分たちを中に入れない限り、誰も入れない」と頑張るのだという。したがって、投票権を持つ人々は後ろの方に並ばざるをえないから、自分たちが入れるか入れないかは、大使館が活動家と難民たちの投票を受け入れるか如何にかかっていることになる。

デモ参加者たちが投票できるならば、後からついていって投票すればよい。デモ参加者たちが閉め出されるならば、入ることはできない。入ることができないのだから、投票はできない。いくらしたくても、いくらしたくなくてもそれは関係ない。すべては大使館側の決断に委ねられた。かくして投票権を持つ人々は窮地を脱することになる。

軍事政権の支配のやり口のひとつが分断である。今回は通知を送るか送らないかで、在日ビルマ人社会を分断しようとした。これに対して、在日ビルマ民主化活動家たちは、投票権を持つ人々の現状をも考慮にいれ、分断された状況を逆手に取って、ひとつの連帯を生み出す運動へと見事に転化してみせた。これは、明日、実際にこれがうまくいくかも含めて、面白いことだ。