2003年10月17日の「首都東京における不法滞在外国人対策の強化に関する共同宣言」以前の話。
あるカレン人の若者が祖国にひとり残した母危篤の報を聞き、帰国しようと思い立った。
外国に滞在するビルマ国籍者は、その国の大使館に毎月収入の一割ほどの「税金」を収めなくてはならない。その税金を納めないと、パスポートの更新をしてもらえないのである。このカレン人はそんな税金など払ったことはなかったし、そもそもいったいどれぐらいの額を滞納しているのかも知らなかった。
そこで、彼はビルマ大使館ではなく入国管理局に行ってこう言った。
「わたしは不法滞在者です。ビルマに帰りたいのですが、どうしたらよいでしょうか」
入管の職員は彼にパスポートの提示を求めた。そして、彼がもっていないのを知ると、入管から追い払った。
入国管理局が職務遂行を怠ったおかげで、彼は帰る機会を失い、今もオーバーステイのまま、日本に暮らしている。ビルマにいる母はとっくの昔にこの世を去り、天涯孤独の身の上だ。