2008/06/19

カチンの老人の話

日本で難民認定された娘夫婦に20年ぶりに会うため、カチンの老人が日本にやってきた。

80歳になんなんとする(実年齢は本人にもわからない)今でもビルマで畑仕事を続けているこの老人、日本で娘夫婦の家に厄介になっている生活がものたりない。

早くビルマに帰国して畑に行きたいが、サイクロンの後のビルマは、物価高、食料不足。しかも衛生状態も悪化するばかり。せめて3ヶ月のビザが切れるまでは、と家族に懇願されては帰るに帰れない。

そこである日の夕食中、婿にこう言った。

「働かずに世話になりっぱなしというんじゃ、どうにもわしは落ち着かん。日本では90歳、100歳超えても社長をしているというではないか。お前の職場で働かしてくれんかな。この通り体は丈夫、何でもできるぞ」

婿はただうつむいて、黙るばかり。いつもは2杯食べるご飯も、1杯しかのどを通らない。

老人にはもうひとり日本で難民として暮らす娘がいた。それで今度はその娘の婿に言う。

「お前の働いている工場で、わしを働かせてくれんかな」

その婿は、姉の婿ほど控え目ではなかったので思わずこう言い返した。

「お義父さん、もしわたしたちがあなたを働かせたら、わたしたちは恥ずかしさのあまり、死んでしまいますよ!」