2009/07/25

写真は恐怖を写し出す(4)

いずれにせよ、これまでの話は、あくまでも政治活動をしている人に限られる。政治活動家ではない人、あるいは難民ではない人の写真の扱いは極めて注意を要する。

たとえば日本で学ぶ留学生や日本人と結婚した人のことだが、これらの人々の中には民主化運動に同情的で、背後から支援する人もいる。だが、たとえいくら協力的であっても、民主化活動家や難民と一緒に写った写真を公表することは、危険な結果をもたらす。これらの人々は、永続的にせよ一時的にせよビルマに帰る人々であり、そうした写真によって軍事政権から反政府運動の協力者とみなされることは時として致命的な事態を招きうるのである。

こんな話がある。日本で難民として認められたあるカチン人男性が老いた母を日本に呼び寄せた。母子は十数年ぶりに再会し、3ヶ月の滞在ビザが切れるまでの間、ひさびさに一つ屋根の下に暮らし、時にはあちこち見物に出かけるなどして楽しい日々を過ごしたのだが、この老母、ひとつだけ決してしないことがあった。それは、息子と一緒に写真を撮ることで、彼女が言うには「帰国の際にそんな写真、つまり政治活動をしている難民と写った写真を持っているのが空港でばれたら、どんな目にあうかわからない」のだと。現像しないでデジカメのメモリに入れておけば大丈夫、と息子がいっても、「怖いのでいやだ」と承知しない。「では(と息子が諦めていう)、わたしの写真はいいけど、せめて孫の写真を持って帰ってください」 すると老母は答えて「もし空港でこの写真の子どもは誰だって尋問されたら、わたしはどう答えればいいの? 厄介ごとが起きるに決まってる!」 結局、家族の写真を一枚も持たずに帰国したそうだ。