2009/10/16

天国と地獄

オーストラリア在住のカレン人活動家、ポールチョウさん夫妻は短い滞在期間の間、入管やNGOを訪問したりしてほとんど暇もなかった。だが、それでも観光らしいこともしたい、という希望があったので、半日ほどだが、東京を案内して回った。8月のことだ。

上野公園をぶらぶら歩いていると、地べたに数十人の男たちが整然と座っているのが目に入った。彼らに向かって女性が演説している。

ぼくはバカなのでうれしくなってしまう。たいていの外国人は、日本にホームレスがいると聞くとびっくりするからだ。

「キリスト教の慈善団体がホームレスたちに食料を分けようとしているのです」と意味なく得意げにぼくがいうと、ポールさんは目を丸くした。

女性の言葉から察するに外国人のようだった。韓国のキリスト教徒はこうした活動に熱心だから、もしかしたら韓国の人かもしれなかった。

はっきりは聞こえなかったが、神様を信じないからあなたたちはこんなふうになったのだ、と説教しているようだった。男たちはじっと黙って座っていた。

ぼくは面白くなっていった。

「あの女性たちはホームレスに食料をあげるのだけど、それ以上にホームレスたちからもらっていることに気がついていない。つまらない話を聞いてもらっているし、こうした施しであの女性たちは天国に一歩近づくのだから。実際感謝すべきは施す側の方なのだ」

ぼくの英語がまずかったのか、ポールさんはわかったようなわからないような返事をした。

ビルマ難民が急増しているので、どこの支援団体も大忙しだ。そして、支援した分だけ実績となるから、組織を発展させる良い機会でもある。

最近、規模を拡大したあるNGOについて、ある非ビルマ民族難民がこんなことを言った。「あれはわれわれのおかげだ」

つまり、支援を求める人がいてはじめて、支援活動も成り立つのだ。当たり前のことだが、支援する者は時々この当たり前の事実を忘れる。

それにしても、支援を求める人を踏み台にして天国に行くくらいならば、地獄に堕ちたほうがまだましだ、というべきであろう。