2010/04/30

30万円

今日は入管で、2つの手続き。
ひとつは、ぼくが保証人をしている人の仮放免手続き。
もうひとつはやはりぼくが保証人している人が在留特別許可を得たので、その人の保証金を受け取る手続き。

どちらも銀行に行かなくてはならないので、一度にやってしまう。

入管でやるべきことを済まして、銀行に。

田町の三菱UFJの日本銀行代理窓口で、2つの書類を出す。

仮放免される人の30万円と、かえってくる保証金の30万円分の小切手。


つまり、30万出して、30万もらう。もっともこの30万円はぼくのお金ではない。

仮放免の最後の手続きのために入管に戻ると、強制送還されたガーナの人が、成田空港で死亡した(殺された)事件で、抗議デモが行われていた。


2010/04/27

すみりょし

ビルマ語ではビルマ文字でRで書かれているものは、Yの音で発音する(一般的にいつもそうかというとわからないが)。

つまり、ヤンゴンのヤンは発音ではそのままYANであるが、綴り上はRANとなる。すなわち、英語での古い呼び方ラングーンは綴りに対応しているのである。

これは歴史的にRで発音されていたものが、のちにYで発音されるようになったが、表記としては変わらなかった、ということだろうと思う。

綴りが古い発音を保つということは、どこでもあることで、英語でもフランス語でも、日本語(特に旧かな)でもある。

さて、BRSAの会員の住所を入力していて、江東区在住のあるビルマ人がこんなふうにローマ字で住所を書いているのに気がついた。

SUMIRYOSHI

これはもちろん「住吉(すみよし)」のことで、この人はすみよしの「よ(YO)」をビルマの綴り風に解釈して、Rを入れずにはいられなかったのである。

2010/04/22

通報義務の例

まちかど:富士宮市・法務省から感謝状 /静岡

 法務省入国管理局は7日、入管法違反容疑(不法入国)の外国人検挙に協力したとして同市市民課記録係に対し感謝状を贈った。同局登録管理官付の福原申子補佐官が市役所を訪れ、芝切尚美係長=に手渡した。

 外国人登録のため昨年5月、アジア系の女が市民課でパスポートを示した際、在留許可シールがないことに男性係員が気付いた。市から受理照会を受け た同局が、同7月に再び窓口を訪れた女の身柄を確保した。福原補佐官は「臨機応変に連絡を取っていただいた」と述べた。同局長の感謝状は異例という。

毎日新聞地方版2010年4月11日朝刊

2010/04/21

情報統制

日本で活動している非ビルマ民族の団体は、少なくとも17〜8はあるのではないかと思うが、最近日本に逃げてきたヤンゴン出身のカレン人がこんなことを言った。

「カレン人以外に反政府活動をしている民族がこんなにいるとは知らなかった!」

つまり、ビルマ国内では情報統制が厳しいので、自分の民族の歴史はともかく、他の民族がどんなふうに政府に抵抗してきたか、あるいは今抵抗しているか、などという情報に接する機会がなかったのである。

2010/04/19

通報義務

難民認定申請をするためには外国人登録証が必要だ。そこで、区役所なり市役所に行って、外国人登録してから、難民申請することになる。

ここで問題となるのは、公務員の「通報義務」だ。これは出入国管理及び難民認定法第62条第2項に基づくもので、公務員は不法滞在者を見つけたら、すぐに入管に通報しなくてはならないのである。

そのため、難民申請のため役所に行って、外国人登録したところ、その夜に入管が家にまでやってきて逮捕されてしまう、ということがあるという。という、というのはぼく自身はそうした例を見たことがないためであるが、いろいろな人に話を聞いてみると、実際にあるらしい。

そこで、外国人登録証のない難民が難民認定申請をする場合、どうするかというと、こんな具合だ。

1)まず午前中に役所に行って、外国人登録申請を行う。登録証の発行までは何ヶ月かかかるから、そのかわり、登録番号の記された申請証明書をもらう。

2)その足で入国管理局に行き、外国人登録証申請証明書とともに難民認定申請書を提出する。

つまり、通報されないうちに素早くことを済ませてしまおうという作戦だ。

申請者のなかには、役所に行った後、自宅には帰らずに友人宅にとまって翌日入管に申請に行くという人もいるという。

この間、難民認定申請準備をしていて、外国人登録をしようとしている松戸在住のビルマ人に頼まれて、松戸市役所に電話をした。そのとき、松戸市の市民課ではこの通報義務を遂行することがあるのですか、と尋ねたら「わたしたちにお答えできるのは、松戸に住んでいる外国の方はすみやかに外国人登録をしてください、ということだけです」という返事だった。

2010/04/17

地下銀行

地下銀行とは「銀行法等に基づく免許を持たず、不正に海外に送金する業者」(Wikipedia)であり、今回の送金偽装詐欺事件はこの地下銀行の問題が背景にある。

もちろん、地下銀行を通じて海外に送金するのは違法なことであるが、在日ビルマ難民の立場に立ってみると止むに止まれない事情もある。

銀行を通じてよりも、地下銀行を通じて送金するほうが損しなくて済むというのである。

これはつまりこういうことだろう。たとえばビルマに1万円送金したとすると、ビルマで受け取るのは約5万チャット。レートは100円=500チャットだ(正確には1米ドル=約450チャット)。

しかし、この公認レートはチャットの本当の価値を反映してはいない。通常用いられる実勢レートでは100円=約1000チャット(あるいはそれ以上)となり、日本円の1万円は実際には10万チャットに等しい。

そして、地下銀行で用いられているのはこの実勢レートだ。まともな銀行から送ると、せっかくのお金が半減してしまうのであれば、地下銀行を使わない理由はない。

しかも、「お金が半減する」というのは実際には間違いで、正しくいうならば「軍事政権に半分ピンハネされる」というのがふさわしい。銀行の幹部はもちろん軍の幹部である。これでは、ますます普通の銀行からでは送りたくなくなる。

繰り返しいうが、地下銀行は違法なことである。そればかりか、今回の詐欺事件のような犯罪をも誘発しうる。だが、その背景にある政治的な事情を解決しないかぎり、在日ビルマ社会の地下銀行の問題はなくならないだろうと思う。

2010/04/16

速度違反

日本のビルマ難民で日本の運転免許証を持っている人は少ないが、オーストラリアではこれは必須だとのこと。それは、オーストラリアの広大な国土も関係しているだろうし、日本の都市部のように鉄道交通網が発達していないせいもあるだろう。

オーストラリアに暮らすあるシャン難民がこんなふうに驚いた。

「オーストラリアは何でも法律がしっかりしています。道路にも40キロ、60キロなどと表示があって、この速度を超えて車を走らすと警察に捕まるのです! わたしも一度、一時停止を無視して罰金200ドルを支払うはめになりました」

ちなみにこの難民はビルマで車の運転手をしていた。

ビルマの道を走るとき注意しなくてはならないのは、信号でも交通標識でもない。軍の検閲所である。

2010/04/14

とばっちり

送金偽装詐欺事件がだんだん不穏な感じになっている。

被害者たちは報復を怖れて相変わらず警察にも弁護士にも訴えないという泣き寝入りの方針を堅持しているとのこと(ひとりのビルマ人被害者が被害届を出そうとしているらしい)。

加害者のSは被害者たちが家に詰め寄せてもドアを開けず、かえって「自分の命が危ない」と警察を呼ぶ始末。Sの自宅に集まった被害者は、警官たちがやってきたのを見て「日本の警察は詐欺師の手助けをする」と憤慨したとか。もっとも、これは被害届を出さないのがいけない。

被害届を出して、事件を公にしなかったせいで、あらたに名古屋在住のビルマ人が詐欺の被害にあったという。事件の被害者はこのまま増え続けるかもしれない。

Sの夫の身内も日本にいるため、Sが1人でやったのではなく、その背後でSの身内が操っているのではないかという噂が広がっているとのこと。そのせいで、その身内は迷惑を被っているばかりか、身の危険まで感じているそうだ。

つまり、Sの代わりにその身内を締め上げてやろうなどという人が現れかねない状況なのだという。その身内の関係者にいわせれば「わたしたちはSの水一杯も飲んだことないのに、なんでこんな危険な思いをしなくてはならないのか」とのこと。

2010/04/09

策略の書

ルネ・カーワンがアラビア語原典から翻訳したという『策略の書』(小林茂訳、読売新聞社)に、アッバース朝2代目のカリフ、アル・マンスールの次のような逸話が載っている。

アル・マンスールはクーファ(イラクの町)の男ひとりずつに銀貨5枚を分配するように命じた。これにより、この町にいる男の正確な数を知った彼は、次のように命じたのだという。「さて、今度は男ひとりずつから租税として銀貨40枚を取れ」と。

「子ども手当」について考えているうちにこんな逸話を思い出した。

もちろん、この子ども手当の後に、政府がこのアル・マンスールと同じことをするとは思わないが、せっかく広い範囲でこの政策を実施するのだから、日本に今どれくらいの外国籍の子どもがいて、どんな状況にあるか、というような統計ぐらいはとったほうがいいのではないか。

これらの子どもたち(ビルマ難民の子どもたちももちろん含まれる)もまた、これからの日本を担っていく人々なのだから。

送金偽装詐欺事件(終)

5)軍事政権に生きる人々ならではの理由
被害者たちからだまし取られたお金はすべてビルマに送金され、加害者の関係者が握っているのだという。

被害者たちが事件を表沙汰にすることで恐れているのは、日本の警察が動き出したことにより、ビルマの政府も動きだし、そのお金が結局すべて軍事政権の手に渡ってしまう、という可能性である。

何年も働いてきたお金が憎むべき敵に渡ってしまう悔しさは何にも代え難い、ということである。

また、刑事事件となって加害者女性が日本で有罪となったら、ビルマに強制退去させられる可能性が高いという。それこそ、この加害者の思う壷だ。なにしろ送還されたビルマでは優雅な生活が待ち受けているのだから。

そんなわけでこの女性は「警察に訴えるなら訴えてみろ、刑務所も強制退去も怖くない!」と開き直っているのだとか。

もっともぼくはそんなに上手くいくとは思ってはいない。ビルマには彼女よりもっと悪い人がひしめいているのだから。

いずれにせよ、ビルマ軍事政権では悪い人ほど栄えるということがこの事件からもよくわかるのである。

2010/04/07

送金偽装詐欺事件(6)

4)恐怖の中に育った人々ならではの理由
軍事政権の暴力の中で生きてきた人々のため、脅しには非常に敏感である。彼らは、脅しが脅しでは終わらないということを身をもって実感しているのである。

詐欺をした女性の弟が姉に手を出したら殺すという考えをもっていると聞いた被害者は、ただちに警察に訴え出ることを諦めた。自分の身ばかりではなく、子どもや、故国の家族に危害が及ぶのを恐れたのである。

この脅しがなされたのは日本であり、こんな脅しが日本でまかり通るのは日本人として不愉快だが、在日ビルマ社会にはそれ独自のリアリティがあるのである。

面白いのが、この弟は決して「殺してやる」とはいってはいないことだ。なんでも「俺は無性に人が殺したい〜」と拳を固めながら言っていたそうだ。

このように言質を取られないようにやるのがビルマ社会の脅しや中傷の常套であり、これはぼく自身身をもって体験している(もっともこれは日本社会でも変わらないかもしれないが)。

2010/04/06

送金偽装詐欺事件(5)

3)キリスト教徒ならではの理由
カチン人の大多数はキリスト教徒で、つねに「良きキリスト教徒ならば我慢して相手を許しましょう」という倫理的立場をとる。この事件にさいしても同様である。

もちろん、これは特殊なキリスト教というべきで、日本のキリスト教徒の中には「こうした犯罪が繰り返されないように、率先して警察に訴えて事実を明らかにするのが務め」と考える人も多いに違いない。

カチン人のキリスト教徒信仰にはよいものもたくさんあるが、この妙に抑圧的な態度のように、有害なものもないわけではない。

在日カチン人の牧師はかつてこんなふうにいっていたそうだ。「(ビルマ軍事政権の)政府に反抗することは、神に逆らうことです」

しかし、この牧師も現在は難民認定申請をしているという。

2010/04/05

送金偽装詐欺事件(4)

今回の事件の被害者の大多数はカチン人であるが、チン人とカレン人、そしてビルマ人も被害にあっている。

そのビルマ人の被害者がカチン人の有力者のところに行って、怒りをあらわにして対応を迫ったのだという。

カチン人は(こんなことは誰にもいわないが)ビルマ人が本当に恐ろしい。だから、ビルマ人が怒ったら凄惨な復讐が待ち受けていると信じている(これはあくまでも非ビルマ民族の目から見ての話だ)。

そんなわけで、カチン人で話し合って、このビルマ人には自分たちで立て替えてお金を返したのだという。

「ビルマ人だけお金が返ってきて、非ビルマ民族には一銭もかえってこない、こんなことってありますか?」とこの話をぼくにしてくれた人はいったのである。

送金偽装詐欺事件(3)

この事件で被害者たちが泣き寝入りを(今のところ)しようと決断した背景は次のようなものだった。

1)在日外国人ならではの理由
被害者となった人のほとんどは難民認定申請後、何らかの在留資格を得た人々だが、難民申請以前には「不法滞在」者だったという経歴を持つため、日本の警察に対してはかかわりたくない、という気持ちあいかわらずもっている人がいる。また、事件を警察に訴えることでかえって、自分たちが逮捕されたり、滞在資格を取り上げられたりするのではないかというおそれをもつ人も多い。

そもそも今回の事件も故国への「不正」な送金という問題が絡んでおり、この後ろめたさも被害者をためらわせている。

2)非ビルマ民族ならではの理由
今回の事件でお金をだまし取った人はカチン人であり、また被害者もカチン人が多かった。そのため、この事件を表沙汰にすることは、「カチン人の恥」だという意識が被害者の間で見られる。

これはカチン人が被っている民族的差別を前提としなければわからない。つまり、噛み砕いていえば「カチン人の恥」というのはこんな意味だ。「ただでさえ、多数派のビルマ人から差別され、悪意ある先入観で見られている我々のイメージをこれ以上悪くすることはできない」

これに関して面白いエピソードを聞いた。

送金偽装詐欺事件(2)

在日ビルマ難民の間で起きている1億円を超える送金偽装詐欺事件であるが、この事件の真相についてはぼくは十分に把握してはいないし、またこれが今後どうなるかもわからない。先週聞いた話によると、被害者たちは「泣き寝入り」という選択をしたとのことで、これが公の場に出るかどうかはまだ不透明だ。

ぼくがここで関心があるのは、この事件からみえてくる、軍事政権下で生きてきた人々の心の動きだ。

比較的安心できる社会に生きる日本人ならば、こうした事件の被害者になった場合、警察に訴えでたりして事件を「表沙汰」にしたり、弁護士などの仲介役を立ててお金を回収しようとしたりなどいろいろ打つ手だてはある。「被害者の会」を結成して交渉にあたるという選択肢だってある。

もちろんこれらは以前は日本では普通ではなかったかもしれないが、今ではそれほど特別なこととは思われない。

だが、今回の被害者となった人々は、そうしなかった。それには政治状況・民族・宗教・難民などからもとらされるさまざまな特殊な要因が働いていたのである。