2010/11/03

族か人か(1)

どのような民族名でもいいのだが、例えば、カレン「族」という人がいる。一方では、カレン「人」という人がいる。

どちらが正しいということはないのだが、ぼくは「人」のほうを用いているし、新聞でも何でも「人」派が増えつつあるように感じるのは、ぼくがこちらのほうが好ましいと感じているせいかもしれない。ま、それでも「族」の使用例のほうが圧倒的に多いのだが。

なぜ「人」のほうがいいのか。もちろんそれなりの理由はある。

ひとつは「人」と「族」には明確な区別が存在しないこと。もうひとつは「族」には差別的な含みがあること。

まず前者から論じてみよう。

われわれは自分たちのことを日本人と呼び、まず日本族とは呼ばない。いっぽう、例えばビルマの少数民族を「〜族」と呼ぶ人は多い。そして、「〜人」とするのが少数派であることはすでに触れた。

では、なぜ、日本人、あるいはアメリカ人、イギリス人、中国人などは「人」で、一方はカチン族、チン族、パラウン族と「族」が用いられるのか。

もっともはっきりした答えは、前に国名が来る場合には「人」、それ以外の場合には「族」を用いるというものだ。

これはもっともらしいが、いくつかのレベルで破綻していることがすぐ分かる。

まず、「人」の前に来る国名は必ずしもその国の国名と一致しないことがあげられる。すなわち、日本語では通常「アメリカ合衆国人、中華人民共和国人、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国人」とはいわずに、アメリカ人、中国人、イギリス人とするのであり、これは「〜人」の前の「国名」が、正式国名とは異なるニュアンスを帯びていることを意味する。