2010/11/20

虫けらどもをひねりつぶせ(8)

1937年にフランスで出版された『虫けらどもをひねりつぶせ』(ルイ−フェルディナン・セリーヌ著、高坂和彦訳、国書刊行会)は、反ユダヤ主義とユダヤ陰謀論を基調とする本です。もちろんそれのみでこの400頁を越える作品が尽きるわけではないのですが、そうした要素抜きでは成り立ちえない本です。例を挙げればこんな具合です。

「フランス人にもし、好奇心があったなら、たとえば自分たちを引き回している連中みんなの名前を、嘘いつわりのない名前を少しでも知ろうとする気があったなら、どんなに物わかりがよくなることだろう。自分たちを支配している連中、それも、とりわけやつらの親や祖父母の名前を。(中略)ドレフュス事件以来、年が経つにつれて、純血種のフランス人が、公然か隠然たるかを問わず、あらゆる指導的な位置からほぼ完全に追い払われ、意気をそがれ、矮小化され、排除され、追放されていることに気づかねばならない。去勢され、徹底的に武装解除されてしまって、もはや自分の土地にいながら、ユダヤ人の言いなりになる得体の知れない家畜の群れでしかないことを。もうすっかり屠殺場行きの準備完了という次第だ。新しい職場ができても、すぐにユダヤ人に占領され、フリーメーソンやユダヤ女の亭主その他の連中によって空席も埋められ、ユダヤのものにされてしまうのが分かっているのか・・・・・・黒人がどうしようもなくのさばりやがる。サディスティックな、頑固一徹の混血野郎どもだ。(中略)ニグロ系ユダヤ人がわれわれの中にいるのではない。われわれこそが、やつらの中にいるのだ。(280-281頁)」

ホロコーストを経験したヨーロッパでこうした主張がとうてい認められるものではないのは当然で、そのため長く絶版となっているとのことです。ぼくはセリーヌやユダヤ民族差別の問題に関しては一般的な知識しか持ち合わせておらず、作者の意図やその問題点についてここで論ずることはできませんが、読み進めていくうちに、ビルマで現在起きている民族差別と重ね合わせずにはいられませんでした。

すなわち、もしビルマ人にセリーヌのような作家がいたとしたら、たとえばカレン人について、『虫けらどもをひねりつぶせ』とかなり同じようなことを書くのではないか、と思ったのです。いや、セリーヌのような文才はなくてもいいのです。別に作家である必要もないのです。普通のビルマ民族が他民族にたいして感じている恐れ、疑い、気味悪さ、憎悪、怒り、恨みを徹底的・直接的に表現したならば、きっと同じような書物、ビルマ語版「虫けらどもをひねりつぶせ」ができるに違いありません。