2010/12/21

つまるところは(3)

一種の真空ジェネレーターであるシュポポンは、停滞した汚水のリクィディティに圧縮ウェイヴ属性を転移することにより衝撃波を発生させ、詰まりの原因であるパルプ・エクスクレメント結合クラスターを美事に粉砕してみせた。わたしの闘いは終わり、事務所は再び平和を取り戻したのであった。

だが、話はこれで終わらない。

数日後、タンさんが折り入って話したいことがあるといってきた。思い詰めた顔をして、言いにくそうに切り出す。

「トイレが詰まったあの一件について、わたしはずっと考えていたのだ」

こっちはとうに忘れていた。

「こうしたことは残念ながらよくあることなのだ。本当に申し訳なく思う。いや、いや! まずわたしの話を聞いてくれ。わたしには何度も経験がある。たいていは来日したばかりのビルマ人だ。彼らは日本のトイレの使い方をよく知らない。それで、流してはいけないものを流す。特に年配の女性が生理用品を! 繰り返すようだが、わたしには何度も経験がある。面倒な経験だ。しかも、ビルマの人々ときたら、決して名乗り出ない。恥辱に感じて知らぬ存ぜぬを貫き通す。わたしはいくどその尻拭いをしたことか!」

わたしは理解する。最初にタンさんにトイレが詰まったことを報告したとき、彼がどうして馳せ参じようとしたかを。とんだ勘違いをさせてしまったのだ。わたしは心底いたたまれなくなる。

「別に犯人捜しをするわけではない」と真面目なタンさんは続ける。「だが、わたしは誰がこの事務所でそんなことをしでかしたか、この数日気になって仕方がなかった。あの人ではなかろうか、あるいはこの人では、と。だが、いっこうに思い当たらない! しかし、誰にせよ起きてしまったことは仕方がない。水に流そうではないか。肝心なのは再発を防ぐことだ。そこで、わたしはトイレに張り紙をしようかと思うのだ。ビルマ語で、何を流してよいか、何を流してはいけないか、注意書きを・・・・・・」

いくら恥知らずのわたしでも、叫び出さずにいられない。「タンさん、タンさん! しでかしたのはビルマ人じゃない! 日本人、日本人!」