2011/02/03

ベンアリの顔(4)

肖像を見ても分かるとおり、ベンアリはイカツい容貌の持ち主だ。特徴的なのはその団子鼻で、これにまつわるジョークを昔聞いたことがある。

チュニジアでは、年配の人や田舎の人にナッファと呼ばれる嗅ぎタバコ(噛みタバコ)を愛用する人がいる。街角では紙巻きたばこや新聞を売るキオスクや露店で売られていて、愛好家はパック詰めにされたそれを小瓶かなにかに移し代えて携行し、鼻や口にひとつまみばかり放り込むのである。

ベンアリが田舎の町を視察に訪れた。庶民との交流の様子を国営テレビに放映させて、プロパガンダに利用しようという腹だ。大勢の取り巻きを引き連れてベンアリはスーク(商店街)を歩き始める。

町の人々、みんな感激して、ベンアリを褒め称える。「ああ! わたしどもの暮らしが楽なのは、大統領のお陰です!」 「政府の事業のお陰で町がこんなに綺麗になりました! 大統領のご家族が祝福されますように! 」  そればかりではない。みんなこぞってベンアリに贈り物をしようとする。果物、お菓子、お茶、金細工、革製品、香水・・・・・・。もう大変な騒ぎだ。

そんな中、ベンアリは、スークの角に座っていたひとりの老人に話しかけた。いかにも田舎の素朴なお爺さんといった風体で、庶民との触れ合いの演出にはうってつけの人物。

さも親しげに話かけるベンアリ。

「ご老人、暮らし向きのほうはいかがかな」

「おかげさまで、楽をさせていただいておりますて。本当にありがたいことでございます」

「それはなにより! ご老人、これからも長生きするのだよ」と歩み去ろうとするベンアリを老人が呼び止める。

「大統領どの、ナッファをひとつまみいかがでしょうか?」

「ご老人よ、わたしはナッファはたしなまないもので!」

老人、嘆息して「ああ〜残念! せっかくの鼻なのに!」

要するに、ベンアリの鼻をからかっているわけだ。わたしの友人のひとりに反政府活動を行っていた人がいるが、その人にこのジョークを話したらこんな風に言われた。

「わたしはベンアリのやっていることには反対だが、その肉体的特徴を笑いものにすべきではない」

そりゃごもっとも。