2011/05/22

協力関係

カレン民族同盟(KNU)の日本代表のモウニー(ソウ・ミョーカインシン)さんと久しぶりに話したら、こんなことを言っていた。

「みんなででも協力できなければ、バラバラになってもできない」

「カレン人だけでは無力だ。みんなと一緒じゃなければダメだ」

つまり、いろいろな民族と協力する必要を説いているわけで、当たり前のように思えるが、ビルマの活動家でこのことを本当に切実に感じている人は少ない。もちろん口先だけでいう人はいくらでもいるが。

モウニーさんはそうした人ではない。モウニーさんほど他民族、特にビルマ民族との協力を重視している在日カレン人はいないのだ。ビルマ人が政治活動をする時には、たいてい彼の姿を見かけるのはそうした理由だ。

しかし、これを誤解して批判するカレン人もいる。単なる目立ちたがり、あるいはお人好しと軽視する。あるいは、ビルマ民族との協力について「我々の敵であるビルマ民族の金魚の糞のように付き従うとは何事だ」と怒る人もいる。

同じ民族からのこうした批判にもかかわらず、カレン人の将来は他民族との協力にあり、とするその政治信条を一貫して維持してきたモウニーさんに、わたしは常々敬意を抱いているのである。

2011/05/21

爆発事件

ネピドー近郊で18日起きた爆発事件についてビルマ政府はKNU(カレン民族同盟)の犯行と主張している。

もちろん、軍事政権がそういっているだけで、必ずしもこれを鵜呑みにする必要はない。

以前、同じような爆弾事件があり、やはり軍事政権はKNUを非難していた。その直後、わたしはタイでKNUの幹部と会って話したが、そのようなことはしないと、否定していた。

わたしも現在のKNUの内情とその考え方から判断するかぎり、このような爆弾事件に係っている可能性は低いのではないかと考えている。

では、そこで誰がそんなことをするのか、という問題になるのだが、軍事政権の非道さを知る人は、軍事政権の自作自演を挙げる。また、軍事政権内の内部抗争と見る人もいる。真相はわからないのだが、ひとつだけ確かなことがある。

このようなテロ事件が起き、その度にKNUの犯行だと政府が発表することで、KNUとは何の関係もない普通のカレン人たちがますますほかのビルマ人たちの憎悪といじめにさらされるようになるということだ。

ビルマ人が心の底に持つカレン人への怖れと憎しみに政府がいわばお墨付きを与えるのだ。

もっともこの点に関しては我が国の立派な政治家たちも同じようなことを行っている。

おかげで、われわれは朝鮮人とパチンコ屋と国歌で勃たない教師を叩くと心の底からスッキリする珍妙な体質になってしまったのである。

2011/05/18

セタナー

在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)の機関誌に書いたものを、BRSAのサイトに掲載した。

これはビルマ会員向けの文章。だが、しっかり日本語で書いてある。

いったい何の役に立つのか、と疑問に思う人も多いだろうが、わたしも同感である。

2011/05/17

ぱすぽ☆

震災以後、難民認定申請を止めて帰国するビルマの人がいる。

そうした人は二つの手続きを行わなくてはならない。一つは入管に行って、難民認定申請を放棄することであり、もうひとつはビルマ大使館に行ってパスポートを発行してもらうことである。

この間、帰国するというビルマの人に、発行したてのパスポートを見せてもらった。

20ページほどの、鶯色の紙をとじ合わせた簡易ななものだ。

もっとも、パスポートというのは正確ではない。正式には身分証明書で、「パスポートの代わりに使用できる」と記されている。また、すでに発行したパスポートが有効期限切れなので、その代用である、ともある。8ページ目には次のような英文がハンコで押されている。

Good for return to the Union of Myanmar only. This Certificate of Identity must be surrendered to the Immigration Authorities on the bearer's return to the Union of Myanmar.

つまり、このパスポートは帰国のためだけのもの、そして、帰国したら空港で取り上げられる、ということだ。

聞いた話では、このパスポートを取得するのにビルマ大使館に9万円払わなくてはならないのだそうだ。わたしにパスポートを見せてくれた人は、10万円払ったといっていた。

いついかなるときでも足元を見るのを忘れるな、というのがこの政府のモットーなのだ。

2011/05/16

難民キャンプ閉鎖(3)

タイ政府がおよそ実行不可能な難民キャンプ閉鎖を言い出した背景は、隣国ビルマ政府との関係に配慮してとりあえずポーズを取ってみた、というのがもっともありそうな解釈だ。

それはまず、中国と同じくタイにとってもビルマの労働力と資源はその経済発展にとって不可欠だからである。また、カンボジア国境で紛争を、タイの南部でテロの問題を抱えるタイにとって、ビルマとの国境の安定は非常に重要なことにちがいない。少なくともタイ政府にとってビルマ政府と険悪になってよいことは何一つない。

しかし、ならば本当に難民キャンプを閉鎖してしまえばよいではないか、と考える人もいるかもしれないが、それは非常に難しい。すでに述べたように実質的に不可能であるというのがその理由だが、これ以外にも次のような理由があると思う(もっともわたしはタイ国内の政治状況についてはほとんど知らないので、これまで見聞きした情報から推測するにすぎない)。

1)難民キャンプの閉鎖による国際的非難。

2)難民キャンプを閉鎖することによる現地の経済的損失。
多数の国際支援NGOがやってきて地元に雇用を与え、現金を落としていくことから、しばしば「難民キャンプはビジネス」だと言われる。タイの中央政府にとってはともかくとしても、地元ではこれをいろいろな意味で利用している人もいるのである。

3)タイのカレン人の反発。
難民キャンプがある地域は、タイのカレン人が住む地域でもあり、タイのカレン人の政治家もいる。難民カレン人やその政治団体やNGOの働きにはこうしたタイ側のカレン人のバックアップがある。カレン人難民の対処を誤るとタイ国内の民族問題にも発展しかねないのである。

難民キャンプ閉鎖(2)

そもそも、難民キャンプにいる人々はほんの氷山の一角なのだ。まず、カレン州には何万もの国内避難民がいる。これらの人々は難民キャンプに行きたくないか、行き着けないかのどちらかの人々で、ジャングルの中を逃げ回っている。

また、タイ国内にも、ビルマの人々が相当な数、移住労働者として住み着いている。これらの人々のほとんどは、必要がないから自分を難民として主張しないだ けの人々だ。いやそもそもタイは難民条約に加盟していないので、UNHCRを通じて難民キャンプに入らない限り、難民と認められることはない。だから、難民だが難民キャンプに入りたくない人はタイ国内では移住労働者となるしかないのだ(少なくともはじめの段階では)。

難民キャンプの人々が、強制送還以後、あるいはキャンプからの逃走以後、ふたたびタイに舞い戻って(これはとっても簡単)、これらの移住労働者グループに吸収されるのは間違いない。

そもそも、ビルマ国籍者の移住労働者の増加は、タイ政府にとってデリケートな問題だ。タイ政府がわざわざ移住労働者を増やすような決定をするはずがない。

そしてまた、難民キャンプの閉鎖は「難民キャンプの外には難民はいない」というタイ政府の建前すら崩しかねない。もちろん、タイ政府が難民条約に加わるならば話は別だ。だが、そうしたら、タイ国内は何万もの難民認定申請者で溢れかえることだろう。噂を聞きつけた国内避難民だって大挙してやってくる。今度は難民キャンプがあるからではない。せまっ苦しい難民キャンプが無くなったと聞いて、喜び勇んでやってくる。正々堂々と、難民認定申請書を片手に。

要するに、タイ政府の難民キャンプ閉鎖はまったく現実的ではないのだ。

では、なぜタイ政府はそんなことを言い出したのか?

2011/05/03

難民キャンプ閉鎖(1)


ビルマでの新政府の発足を受けて、タイ政府が難民キャンプの閉鎖を検討しはじめたというニュースが先日流れた。「難民キャンプ閉鎖」 タイの送還方針、波紋

これを聞いていろいろ懸念する人がいるが、これはまず不可能だと思う。

9箇所の難民キャンプに暮らす15万人もの人々をいったいどうやって帰すのか?

もちろん、難民キャンプはたいていビルマ国境の目と鼻の先にあるにしても、これだけの人々を意に反してそのわずかな距離を動かすことは容易ではない。ビルマ側で大規模な野外フェスでもあれば、例えジャングルの中でもほっといたって何万人もの人々が歩いて行くだろうが、そんな呑気なお国柄ではない。

タイ軍がムリヤリ大量に送還すればいい? やめといたがいい、そんなこと。ますます厄介疑いなし。難民たちが大人しくされるがままになることなどありえない。必死の抵抗だ。みんなビルマでなぶり殺しにされるよりましだと思っているからね。死者が出ずにはいない。そうなりゃもちろんタイの国際的な評価だって下がる。

では、少しずつ送還したらどうか。これもまず不可能。一人でも送還したら最後、すべての難民たちはキャンプの外へと逃げ出すだろう。もちろん、タイには検問があちこちにあるので捕まえることは不可能ではないが、それでも15万人をすべて捕まえて送還する手間は膨大だ。