2012/09/27

涙曹操

今年の5月、在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)の総会の後、みんなで大塚のビルマ家庭料理の店エーヤワディに行った。

みんなほっとして飲んでる。わたしもだ。豚肉料理やショウガのサラダなどが出てくる。メニューを見ると、「ヤンゴン丼」「マンダレ丼」とある。


何かと思って聞くと、中華丼のようなものらしい。たしかマンダレーのほうは辛口だとか。

この店は造りがスナックで、カラオケもある。みんな、ビルマの歌を歌ってる。ああ、ついに俺にお呼びがかる。歌いたくなんかないが、ちっとは愛想良くしなきゃ。なにしろ、わたしは今日からしばらく会長として働かなくてはならない。それで選曲に乗り出す。

わたしは酔いのせいにすることはできない。お前は一体どんな気持ちで、どんな見込みがあって、どんな高みに上り詰めようとして、何を冀って、この曲を選んだのだ? 嵐の「Love Rainbow」をっ。よりにもよって! まったくの大惨事。ま、みんな聞いてやしなかったが。全然歌えなかった。サビのメロディも忘れてた。七色のフレーズはとんと煌めきださなかった……。あまりの惨状に、事務局長のHさんがもうひとつのマイクを持ってやさしくサポートしてくれてた。「サンハイ!」てな感じで。いたたまれぬ! 

わたしは自分を激しく呪う。お前なんかもっと素朴なチョイスがお似合いだ! 尋常小学校唱歌とか。ちょうど澁澤龍彦がそうして笑われたみたいに。おお、芸術か、猥褻か……平成のサド裁判のはじまりだ!

有罪を宣告されたわたしは再び黙って飲みはじめる。みんなおおいに歌い飲み騒いでいる。とかするうちに、もうそろそろお開きの時間。最後に一曲! するとHさんが気を利かせて、「涙そうそう」を入れてくれる。ビルマ人も大好きな歌。以前わたしはこいつをみんなで歌ったことがある。Hさん、わたしに名誉挽回のチャンスをくれたというわけだ。

わたしはマイクを握って歌いだす。なんと! いい声出てる! 伸びやかに、声量もばっちしで、会長の面目守られたり! と思ったら、役員のZさんが別のマイク片手に気持ち良さそうに歌ってた。涙そうそうなのはこっちで。