2013/07/18

はなぐすり

入管の収容所内ではすることがない。十分に身体を動かすこともできないし,そもそも仕事をしないのだから,一日の疲れというものがない。

それで,夜眠ることができなくなる。

消灯時間から布団に入って一晩中まんじりともしない。入管の中はただでさえ不安と恐怖で一杯だ。これらが夜っぴて被収容者を苛む。わたしなら日が暮れるのが怖くなる。

あまりの苦しさに,入管の医者に頼んで睡眠薬を出してもらう人もいる。

だが,経験者によればこれは絶対よしたほうがいい。釈放されてからも睡眠薬なしには眠れなくなってしまうからだ。

こういうときはもう昼だろうが何だろうが眠いときに寝るしかない(と経験者は語る)。無理に夜寝ようとするからつらくなる。

さて,ある被収容者が,入管の医者に眠れないと訴えた。睡眠薬をください,と。医者はすぐに出してくれる。

だが,被収容者,その薬をじっと見る。で,医者に言う。

「先生,これは鼻炎の薬じゃないですか?」

「……日本語読めるの?」

「はい」

そこで医者は彼を入管の外の病院に連れて行き,正式に睡眠薬を処方してくれる。

わたしが分からないのは,この医者が単なる懈怠から嘘を言ったのか,それとも善意からそうしたのか,ということだ。