2013/11/07

封じる力

ビルマの仏教は,上座部仏教徒と呼ばれるもので,われわれの伝統である大乗仏教とは伝統が異なる。

日本のお坊さんは,たいていの場合,妻帯肉食を俗人とともに享受していて,これは上座部仏教にはまったくありえないことだが,僧も俗も根本的には違いがないというのが大乗の仏性というものなのだから,これはこれで理にかなっている。

これに対して上座部のお坊さんは,俗人とはまったく異なる存在であり,両者の断絶はさまざまな戒律によって維持されている。

そのひとつが,接触に関する規定で,ビルマのお坊さんはお金や女性に触れてはいけないとされる。

ビルマ問題の専門家である田辺寿夫さんが『ビルマの竪琴』 について,そもそもお坊さんは竪琴などという遊興に用いられる道具に触れることなどない,と指摘され,かくして水島上等兵の面目丸潰れとなったが,これも同じような事情によっている。

10月27日,中野駅北口広場で開催されたダディンジュ祭で,この仏教の行事にふさわしく,その始まりにビルマのお坊さんが会場でいくつかの宗教儀式を行った。

お坊さんの列がお店の前を回って寄付や供物を受け取ったり,集まってお祈りしたりしたのがそれだが,お坊さんの托鉢が始まる前に「お坊さんはお金を触ってはいけないので,寄付するときはお坊さんの後に付いて歩いている人に渡してください」と田辺さんの通訳を通じて運営から注意があった。

わたしは在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)の会長をしている関係から,お坊さんが来たら寄付をするようにと,お金が入った封筒をもたされていた。

封筒を手にBRSAの露店先で待っていると,やがてお坊さんが前に差し掛かった。

わたしはこういうことははじめてで,封筒を差し出したまま,それを食べ物のパックと一緒に鉢に入れた方がいいのか,それとも後ろの人に渡した方がいいのか,一瞬戸惑った。するとお坊さんは手ずからその封筒を取り,後ろの人に渡したのだった。

さ,触った!

お金の持つ世俗パワーを封筒が封じていた,ということであろう……(わたしが撮影した下のビデオでも同じような光景が見られる)。