2014/02/12

ポワロ,ヴァン・ドゥーゼンそしてデュパン

早急に引越しをしなくてはならないチュニジア人がおり,友人なので家探しに同行した。

目当てはある。関東某所にあるマンションだ。賃料は月に15,000円。管理費込みで18,500円。敷金礼金ゼロ。駅からも遠くはない。ネットで見る限り最高の物件だ。

「心理的瑕疵あり」と書いてあるのを除けば。

不動産屋に問い合わせると,まずは店舗にて,というので店まで行く。若い男性が応対してくれる。わたしたちとしてはできるだけ早く例の物件を紹介してほしいのだが,なんか別の少し高めの物件を紹介しようとする。

チュニジア人は少しいらついている。「わたしはもうこれ(目当ての物件)に決めたのだ」。そうしたらようやくお店の人が「これは前の住人のことではないので,伝える義務はないのですが」と言いながら,件の「心理的瑕疵」について説明してくれた。

4代前の住人が風呂場で自殺をしたのだそうだ。

そして,その後,次の人が入居した。「わたしはそんなことは気にしませんよ」と言いながら。豪の者だ。だが2ヶ月持たなかった。

すぐに別の人が入居した。これも2ヶ月で出た。そして,現在の住人はというと,2ヶ月経たずして逃げ出した。今は空室だ。

わたしは,何があるのか,と店の人に尋ねるが,彼は「心理的に何かあるとしか……」と首を傾げるばかり。

しかし,チュニジア人「面白い。わたしはここがいい!」

彼はムスリムだ。「コーランを置いておけば大丈夫!」と言い張る。

わたしもコーランの重みは十分に承知している。しかし,神を試みるべきではない。

店の人が言う。「オーナーの方はお祓いにお金をかけたくないそうなのです」

チュニジア人「ああ! ならわたしが住めばここはすっかりきれいになる! その分家賃の交渉できないかな!」

東西の衝突だ。

しかし費用の点で折り合いがつかなかった。

家賃は安くても,入居するにはそれなりにかかる。外国人なので保証金も割高だ。退去時の清掃費として45,000円を最初に払わなくてはならない。敷金ゼロと言っても結局これが敷金代わりだ。仮に2ヶ月で逃げ出しても戻ってこないのか,と聞くと「然り」との答え。

しかも特殊な条件が2つある。常に2ヶ月分先払いしなくてはならないということと,入居してから2年後には家賃が2倍の30,000円になるということだ。

店の人「つまり,もう心理的瑕疵はなくなったから,元の家賃に戻すということです。オーナーの方も賢いですね」

いろいろ合わせて初期費用はだいたい15万近くになった。これは彼には少し厳しい金額だ。

われわれは「検討します」と不動産屋を出た。

「でもいいね,あれ」とまだ未練があるようす。しかし,別のチュニジア人に電話して相談したら,止めろ,と言われていた。

おお,だが,わたしの灰色の脳細胞を欺くことはできぬ。

住人がことごとく2ヶ月で逃げ出すだと? しかも,上述の通り,逃げ出せば逃げ出すほどオーナーが儲かる仕組みになっている。

2足す2は常に4だ。例外なく。

わたしに風呂場を調べさせてほしい。

きっと風呂場とオーナーの家の庭石の下との間にオランウータンが行き来できるぐらいの幅の秘密の通路があるはずだから。