2015/06/12

入管エレジー [18日目]

品川に収容されているビルマ難民のために出していた仮放免許可が下りた。

毎度のことながら、何で許可されたのか分からない。この人は3度目の申請で通ったのだが、不許可だった2回と今回の申請の内容はほとんど変わらない。

要するにわたしがどんな申請をしようと、入管が出そうと判断しなければ、通らないのだ。

かつてわたしは、仮放免許可申請理由書をしたためるのに文才の限りを費やしたものだった。被収容者の悲しみと苦しみをあたかも一編のエレジーに仕立てあげ切々とうたいあげたのだ。おお、その哀切な言葉たちは鬼神をして慟哭せしむるほどだった。

ただ残念ながら、これが入管にまったく効き目がなかった。ホント。

てなわけで、わたしはもうそんなことはしない。

理由書のひな形を作っておいて、要請があるたびに名前を入れて、はい出来上がりだ(心身に異常のある場合だけその旨付け加える)。

きっと入管だって読みゃしない。書類が揃ってりゃいいのだ。理由書に書いてあるのがふわとろオムレツの作り方だったって、出すときゃ出すだろう。

ローマの詩人、オウィディウスは、配流の地で書きつづったその哀歌でもって、皇帝アウグストゥスの怒りを解き、ローマへの帰還を果たそうとしたが、結局、客死を免れえなかった。オウィディウスほどの詩人でさえこうなのだから、わたしごときのエレジーが効き目を発揮しなかったとしても無理はないのである。

品川入管の面会待合室行きのエレベーター。

2015/06/08

アラカン民族のこと [17日目]

アラカン民族紹介のスライドショーに自分でナレーションをいれたものをYouTubeに公開したのだが、わたしの声がなかなか良いとの評価をいただいた(約1名)。

となると、映像を見る人がわたしの朗々たる美声に聞きほれてしまい、肝心の内容が頭に入ってこないなどということもあるかもしれない。

もう心配でいてもたってもいられぬ。

なので、念のため以下にテキストを公開する次第だ(すでに述べたようにゾウミンカインさんが書いたものをわたしがシンプルに訳したものだ)。

1)ゾウミンカイン。日本のアラカン民族の代表です。

2)イギリス植民地前のビルマではすべての民族が独立して平和に暮らしていました。

3)アウンサン将軍の主導のもと、ビルマをひとつにするために結ばれたのがパンロン協定でした。すべての民族の平等と自治が認められていました。

4)アウンサン将軍の暗殺後、ビルマの指導者たちはパンロン協定を反故にして、権力を奪いました。

5)ビルマの指導者たちは少数民族に政治的な力を譲り渡すことを拒み、平等と自治を否定しました。それゆえ、多くの民族が武器をとって戦う道を選びました。これは民族同士の戦いではなく、中央政府とわたしたち少数民族の戦いなのです。

ビルマの問題の本質は、民族の平等と自治を認めない現在の憲法にあります。

6)アラカン人も、チン人も、カチン人も、カレン人も自分の軍を持っています。

7)カレンニー人も、コーカン人も、モン人も、パラウン人もともに戦っています。

8)シャン州軍もあれば、ワ人の軍もあります。

9)アラカン人はアラカン州に暮らしています。

10)豊かな資源が眠るわたしたちの州ですが、開発の点ではビルマ最低です。

11)アラカン州の誇る古代仏教遺跡、そしてビルマ中のあこがれのガパリビーチ。

12)アラカン州が産出する天然ガスは中国に売られ、地元には利益はまったく還元されません。

13)中国企業の進出にともない、土地は奪われ、住民たちは適切な利益や補償を受けることもできません。

14)中国にとってアラカン州は、天然ガスや原油をパイプラインによってもたらす生命線であると同時に、インド洋のインド海軍の動きを監視するための戦略拠点ともなっています。

15)アラカン州には豊富な天然ガスがあるにも関わらず、ビルマ政府は石炭による火力発電所の建設を計画しています。環境破壊と健康被害を懸念するこの地域の住民たちは計画に反対しています。

16)政府への不満と反中国感情がアラカン州で高まっています。他の国々、特に日本からの投資をわたしたちは待ち望んでいます。どうもありがとうございました。

2015/06/04

ビルマの少数民族とアラカン民族の現状 [16日目]

先日開催されたファッション・ショーで上映する民族紹介ビデオの制作を手伝ってほしいと頼まれた。

チン民族のものはすでに完成していて、アラカン民族はPowerPointのスライドショーまでは完成していた。他の民族は間に合ったのかどうか知らない。

アラカン民族のスライドを製作したのはリーダーのゾウミンカインさんで、これを動画にしてナレーションをつけてほしいという。


で、動画に変換して、ファッション・ショー前日の真夜中に一人で声を吹き込んだ。ナレーションはスライドの英語をもとに作ったもので、原文をかなり単純化している。

長く話すとボロが出るからだ。

それでも何箇所かとちっているし、Ngapaliビーチをガポリと言ってしまっているが、もうそんなの気にしない。なぜなら真夜中だからだ。

ファッション・ショーは行けなかったが、翌日ゾウミンカインさんからプレゼンテーションはうまくいったとの連絡をいただいた。

ゾウミンカインさんからの許可を得たうえで、このスライドショーをYouTubeにアップロードさせていただく。

わたしのナレーションはともかく、内容自体はよくまとまっているのでぜひごらんください。

2015/06/03

ネガティブでクールな地獄 [15日目]

仮放免申請のために次に面会したのは不眠症に悩むBRSA会員だ。

いやな雰囲気をまとって面会室にやって来る。笑顔ひとつ見せない。

眠れなくて追いつめられているのだ。収容される前は、控えめだけど人を脅かすような感じのある人ではなかった。いまではすっかりネガティブの吹きだまりだ。

国境ではポジとネガが入れ替わる。

それはともかくわたしと話していると少し笑顔を見せる。暗い世界に光が差したという感じだ。

眠りが浅くてせいぜい2時間ぐらい。朝の点呼の後も横になっているが、テレビや人の出入りがあるため寝つけない。イライラが募るので精神安定剤をもらっている……。

そんな様子を聞きながら、仮放免の申請書に署名をしてもらう。面会後に受け取ることになっている。

面会時間は30分だが、わたしは2人に面会するので15分ずつに短縮してもらっていた。

イライラについて話している時、入管の職員が迎えに来た。

彼は無視している。話し続ける。再び強烈な敵意を発散しはじめる。

「自分がこんなに怒りっぽくなるなんて思いもしませんでした……」

わたしは彼が入管の職員に敵対的な行動を取るのではないかと恐れ、ノートを畳んで立ち上がる。彼もやがて席を立つ。ネガティブ界の天使は彼を奪い去っていく。

2人の仮放免申請を無事に済ませ、入管で用を済ませた人々でいっぱいのバスに乗り込む。品川駅でみな降りる。若い外国人男性が前にいる。リュックにアニメのキャラクターの缶バッジをいくつもつけている。猫の耳の女の子やなんかだ。

日本ではそういうものを公共の場で身に付けたりすることは重罪にあたり、場合によって「クール・ジャパン」と呼ばれる極寒の監獄に送られることがあるからすぐに捨てたほうがいい、と教えてあげたがったが止めた。

くそっ、他人のことなど構っていられるか。

2015/06/02

瞑想のススメ [14日目]

昨日、仮放免不許可通知が届いた2人のために、今日品川の入管に行ってまた申請してきた。

1人はカレン人で、面会すると元気そうだ。ただいつも頭が痛いという。いつも何してるのかと聞いたら、読書・サッカー・瞑想という答えが返ってきた。

以前は瞑想などしていなかった彼だが、長く単調な収容生活を乗り切るためにはこういうことも必要らしい。

ビルマの仏教徒はわりに瞑想をする。わたしたちは瞑想を実践している共通の友人たちについて話しあった。

そのうちの1人は、BRSAの事務局長をしているテッアウンさんで、毎日、しかも時間があればあるだけ瞑想をするという。

瞑想というのは、日本でいう禅のようなものだが、禅と同じように、本質的には宗教とは関係ない。わたしも一度テッアウンさんの瞑想に付き合ったことがあるが、座りながら「もう絶対眠くなる、絶対寝る、そしてイビキかく」と心配しているうちにどうでもよくなってしまった。

不真面目な人間はスピリチュアルな探究には向かない。

そのようなわたしではあるが、BRSAに瞑想部でもつくったら楽しいのではないかといつも思っている。

面会の申請書類

不許可通知書 [13日目]

東京入国管理局から書留が来ると、それはわたしの出している仮放免申請が不許可であったということを意味する。

許可の場合は入管から直接電話がかかってくる。仮放免の日取りを決めるためだ。

先週の金曜日、書留の不在連絡票が入っていて、今日月曜日の朝に受け取った。

2人分の不許可通知だ。通知書と教示書の2枚ずつで4枚。どういうものか知りたい方々のために、内密にネット上で公開しよう。



何度申請しても許可は下りない……諦めたくなるがいつか下りると信じて申請する。

不許可通知書は残念なものだが、もしかしたら、入管はこうした通知を通じて国民であるわたしたちに人生というものを教えてくれているのではないだろうか。

諦めるな、信じて生きよ……わたしの申請に対して送られてきた通知書や教示書は、きっと通信教育、明日のための添削指導……。

にしても、忌々しいので、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱行きだ。