2016/01/03

ゴールデン・シティ・ファー

本当に遠くにあって小さくしか見えないんだけど、すごくきれいなんだ。あらゆる大きさと形をした金の塔、どの上にも旗があって。    Gene Wolfe “Golden City Far”

ジーン・ウルフ(Gene Wolfe)の”Wizard Knight”は2部からなるファンタジー小説で、つい去年の12月、邦訳が『ウィザード・ナイト』と題されて4巻本で出版された。わたしがこれを読んだのは刊行されてそれほど経っていない頃で、細かい内容は忘れてしまっているが、この作家らしい皮肉で残酷なリアリズムに溢れている(もっとも優れたリアリズムは常にそうだが)。つまり単なるファンタジー小説ではないというわけで、第2部の”Wizard”の方はほとんど政治小説の趣すらある。

同じウルフの短編”Golden City Far”を最近読んだが、これは高校生が夢で見る異世界の冒険を扱ったもので、同様に10代の少年が異世界に紛れ込んで「英雄」となる“Wizard Knight”と似ている。発表された年もともに2004年なので、着想上の関連性はあるに違いない。

それはともかく、わたしは”Golden City Far”というタイトルを見ると、ビルマの首都ネーピードーを思い出す。

その都市にはビルマ連邦の支配機構が集約され、日本を含むさまざまな外国政府、国際機関、報道機関の使者が参上する中心地であり、権力と富につながる梯子がビルマで唯一架けられた、王者と富豪と覇者の生産地だ。

ただし、そこには古い物語を語って聞かせてくれる村人もいなければ、泥まみれになって働く活動家もいない。つまりわたしにはまったく縁のない土地柄というわけで、ただ、金色に輝く夢幻の都市という非現実的なイメージを持っていたにすぎなかった。つまりわたしにとっての”Golden City Far”であったというわけだ。

しかし、昨年10月、わたしはいくつかの偶然の連鎖により、この「遥かなる黄金の都市」を訪れることになった。そればかりではない、そこで行われた全土停戦合意式典で普段はお目にかかれぬ人々を間近に見る機会を得たのであった。これ自体、わたしにとっては一つの物語のようであり、1月17日の報告会「我らが勝利の日:チン民族と全土停戦合意(NCA)」ではわたしの参加に至る経緯についても触れたいと思う。

ウルフのコメントによれば、短編”Golden City Far”で扱われた「夢、高校、愛を知ること」という3つの主題は、彼の見出した最良の物語のレシピなのだそうだ。わたしにとっての”Golden City Far”である今回の報告会は残念ながらその3つの主題のいずれも含まず、しょぼくれた限りだが、しょぼくれたなりに有意義なものにできたらと考えている。

ネーピードーの風景