2016/03/02

カイゼン

仮放免手続では保証金の納付手続のさいに、品川の入管では4階の会計の窓口で、いくつかの書類にハンコを押さなくてはならない。

わたしはこの窓口に何度も行ったことがあるが、応対に出てくれる職員は女性のことが多いが、たまに男性の時もある。

わたしはそこで数度応対してくれたある男性職員について話したいと思う。その人は40手前ぐらいで、まじめそうな感じ、人あしらいも丁寧だった。

窓口はいつもは閉まっていて縁に置いてある呼び鈴を鳴らすとガラス戸を開けてくれる。そこのカウンターで書類に必要事項を記入したり押印したりするわけだ。

その男性の指示のままにわたしは書類に名前と住所を記す。次はハンコを押す番だ。以前同じような手続をした時、朱肉を出してくれなかったことがあり、腹立たしく思ったが、その人はそんなことはしない。朱肉と小型のゴムマットを出してくれた。

わたしは朱肉にハンコを押しつける。

「ここに押してください」と彼はその個所を示す。

だが、わたしは一瞬待った。というのも、ゴムマットが脇に置かれたままだったから。しかし、彼は微動だにしない。わたしは緑色のマットを横目にハンコを押して手続を済ませた。

わたしは彼に指摘したり文句を言ったりはしなかった。およそ悪意でそんなことをする人には見えなかったから。おそらくうっかりしたのだろう。そして、うっかりすることは誰にでもあることだ。

だが、その後、3回ほど彼の前で手続をしたが、相変わらず、緑のゴムマットは紙の横に放置されたままだったのである。

彼にとってこのゴムマットとはいったいどんな存在なのだろうか? 朱肉の座布団という認識なのだろうか。ほかの職員は何も教えてあげないのだろうか? 

いや、そもそも彼自身にはハンコを押した経験がないのだろうか?

それとも、ドライジンを飲みながらベルモットを眺めるという例の超ドライなマティーニの逸話的な、あるいは博多ラーメンの「湯気通し」的ななにかが関与しているのだろうか?

わたしには今もって分からない。ただ、逆に楽しみになってきた。いつまで彼がそうし続けるのかと。

だが、その楽しみはすぐに奪われた。4度目だかの手続の時に彼がマットを敷いたのだ、そう、紙の下にあてがったのだ!

誰かが指摘したのだろうか? それともある日彼にヒラメキが訪れたのだろうか? いずれにせよ、入管の対応の改善を目の当たりにした出来事であった。

仮放免還付の委任状